看護師やセラピストが訪問をすると利用者様がお口や嚥下のことで困っていらっしゃる姿を拝見することがあります。

 現場でぶつかる口腔や嚥下の疑問を解消しようと寝屋川にある医療法人美和会平成歯科クリニックの院長小谷泰子先生が座談会を開催して下さいました。

 小谷先生は摂食と嚥下の専門家であり、在宅で嚥下内視鏡をして下さる数少ない先生です。今回のブログでは座談会でスタッフからあがった質問と先生からのお話の一部をご紹介します。


「よろしくお願いします。全てが解決するものではないですが、気軽に聞いて下さい。」という小谷先生のお優しいお言葉で会は和やかにスタートしました。

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徳井看護師からの質問:「舌苔(ぜったい)のケア方法で有効なものは何ですか?」

小谷先生:

「舌苔はベロの上についているやつですね。
舌苔の汚れって気になると思いますが、舌苔(ぜったい)の汚れは絶対(ぜったい)に取らないといけないものじゃないんです^^

茸状乳頭(じじょうにゅうとう)(舌のデコボコしてるもの)が変性して黒くなったり、消化サイクルの影響で状態が変わったりします。
やわらかい歯ブラシやウェットティッシュで軽くこすってみて、取れなければ無理に取らなくても大丈夫。そんなに悪さはしません。 

 取ってほしいのは痰、食渣(しょくさ)(食べ物の残りカス)、歯垢を取ってほしいです。
ただ、普通に口から食べている方は口も喉もそんなに汚れていません。胃瘻などつけている方は口も喉も汚れやすいので痰を取るケアをして下さい。

 あと、意外と上顎に汚れがついている方がいます。食べ物を食べる時はベロが上顎にくっつくのを繰り返してプレスをかけて食べてます。
ですが、ベロの力や嚥下が弱いと上顎に食べ物が残ります。
ベロの汚れはそんなに気にしなくていいと話しましたが、上顎に汚れがついていれば取って下さい。方法は、まず水やお茶を飲むなどして汚れをほぐしてからスポンジブラシなどで取ります。」

徳井看護師からもう一つ質問:「味覚障害の原因や治療方法はありますか?」

小谷先生:

「まず高齢者の方は鼻が悪くなると匂いがきかなくなり食べ物が美味しくなくなってしまいます。みなさん、自分の鼻をつまんでお茶を飲んでみましょう。飲み終わった後も鼻はつまんでて下さい。・・・あんまり美味しくないですよね?
例えば安いかき氷って全部同じ味なんです。同じ液に赤色をつけて匂いをイチゴにしたらイチゴ味になるし、また同じ液に青色をつけて匂いをラムネにしたらラムネ味になるんです。匂いは美味しさを感じるのに重要なんです。匂いが分からなくなると味が分からなくなります。

 味が美味しくない場合は、味を濃くして美味しさを感じやすくするのも一つの方法ですが、病気などで調味料の量に配慮が必要であれば生姜や出汁で風味をだすのが有効と言われています。
また、病気で筋力が衰えて口や舌が思うように動かせず、味そのものよりは食感や歯ごたえが原因で食べれなくなると「美味しくない」と表現することがありますし、抗がん剤の影響で味覚が変わることもあります。

食というのは楽しみ要素と栄養の要素があるので、分けて考えるといいと思います。
また、亜鉛が不足すると味覚は悪くなります。現代では亜鉛不足は考えにくいのですが、処方してもらうのはひとつの手ではあります。」

 

 理学療法士杉野からの質問:「食欲低下の原因には摂食、嚥下障害以外に歯や入歯の不具合もあると思うのですが先生の見解を教えて下さい。」

小谷先生:

「質問にある通り、歯や入歯の不具合でも食欲低下につながります。私達でも口内炎が一個できただけで食べにくくなりますし、歯が一本尖っているのがあったりする事でも影響します。ごはんの中に髪の毛一本あるだけで違和感がでるくらい口の中は繊細なものです。

 写真を撮って、針金が折れてないか、部分入歯の針金をひっかける歯が折れたり欠けたりしていないかなどの不具合を確認して、半年に一回の定期的な受診を促すのがいいです。

 あと、入歯を作りやすい人と作りにくい人がいます。プカプカの入れ歯をつけていても使いこなす人もいれば、ぴったりの入歯をつけているように見えるのに噛めない人もいます。入歯を作る時には歯科医師と相談してほしいです。

 

松元理学療法士からの質問:「むせこみやすい方の効果的なリハビリ方法はありますか?口から飲んだり食べたりするとゴホッと咳き込みます。」

小谷先生

「食べ物を食べて食道ではなく気管に入る。それが誤嚥です。誤嚥したものを出そうとする体の防御反応が咳です。喉頭を超えて声帯を超えて下の方に行っちゃうのが誤嚥、その手前の喉頭侵入で声帯の上でとどまって軽い咳で出せる方もいます。極端に言うと咳そのもの悪くないです。一番いやなのは誤嚥しても咳がでないことです。

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一回の咳でゴホッとしっかり出せないというのは、、、

  みなさん、猫背になって咳をしてみて下さい。 息が吸いにくくないですか?
では胸をはって咳をしてみて下さい。どうですか?息が吸いやすくなりませんか?
咳というのは声帯を閉じてたくさんの空気を一度に出すのが咳なんです。
咳は空気量が関わっています。リハビリなら呼吸リハをしたり、ただ深呼吸をするだけでも空気量が増えることがあります。 

 液体って動きが早いですよね。そうするとゴクッと飲む前に液体がさーっと流れてしまう。これが液体の誤嚥で一番多いパターンです。トロミをつける事でスピードを遅くして流れてしまうのを防ぐげますが、トロミをつけると美味しくなくなり嫌がられます。

なので、まずはひとくち量をコントロールしましょう。量を少量にします。

 ご飯を食べてる途中で、口に残った食べ物をお茶で流そうとして飲んだらむせる時は、食事の時だけお茶にトロミをつけて、普段のお茶やコーヒーにはとろみつけないという指導をすることがあります。

 リハビリに関してはご飯を食べ続けるのがリハビリそのものだったりしますね。咳は呼吸が大事になってくるかと思います。呼吸を改善するには色んなやり方がありますが、姿勢を整えてもらったり、特に年配の女性は胸を張ってもらうとか、息を吸う時に鎖骨の下や横隔膜などが膨らむように意識をしたりとか、腕を上げたりして日常生活に取り込んでもらうといいと思います。」

 

 小谷先生はスタッフからの質問にとてもわかりやすく、終始丁寧に答えて下さいました。先生は内視鏡の映像や嚥下をしてしまう瞬間の動画などを見せて下さったり、全員でお茶を猫背で飲んでみて、いかに飲みずらいかを体感できたりと、事務員の私でも目と体で嚥下について理解することできました。先生が教えて下さったことを看護師やセラピストが訪問の現場で利用者様にお届けできるようにします^^

小谷先生、ありがとうございました。

 


夏のスタートから酷暑ですね。

皆さんお元気でお過ごしでしょうか。私は暑いのが苦手で、毎年この時期に体調を崩してしまうので、睡眠と水分を十分摂って、今年こそはダウンしないようにと気を付けています。

言語聴覚士(ST:Speech-language-hearing Therapist)の事を皆さんに知って欲しくて、コミュニケーションや嚥下の話を毎回させてもらっています。今回は、以前の話で登場した失語症の訓練の一つである「PACE訓練」を紹介したいと思います。

失語症の訓練では、言語機能回復の訓練、実用的コミュニケーションの訓練、心理面や社会面の援助などを行っています。

「言語機能回復の訓練」は、「絵カードを見てその絵の名前や何をしている場面かを言う(書く)」「ことばを聴いて(読んで)何枚か並んだ絵カードの中から適する絵を選ぶ」等、一般的に言語訓練のイメージになっているのではないでしょうか。

一方で「実用的コミュニケーションの訓練」は、回復が制限される言語面に加えて、非言語的コミュニケーション手段を確保するために行います。

PACE訓練(Promoting Aphasics' Communicative Effectiveness)は、日本語で「コミュニケーション能力促進法」という実用的コミュニケーション訓練の一つです。

①新しい情報の交換
②コミュニケーション方法の自由な選択
③情報の送り手と受け手の対等な役割分担
④内容の伝達に成功したかどうかのフィードバック

といった4つの原則で訓練を行います。

まず始めに利用者様と言語聴覚士の間に、絵カードを裏返して積み重ねます。その後、利用者様とSTが交互に1枚ずつ絵カードを取り、様々な伝達手段を用いて内容を伝え合います。

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(写真は手製カードの一部です)

私はこの「PACE訓練」が好きで、失語症の利用者様全員の訓練に取り入れています。

ことばが思うように使えなくなってしまった状態でも、コミュニケーションを取ることを諦めて欲しくない、使える手段を残らず使って少しでもコミュニケーションが取れたら、という思いで行っています。

STと利用者様で行うのはもちろんですが、ご家族がおられれば、ご家族と利用者様、他のスタッフ(看護師やセラピスト)が訪問に同行する機会があれば、スタッフと利用者様で伝え合いを経験してもらっています。

絵を見て名前がすぐ言えればそれに越したことはありませんが、失語症特有の喚語困難(わかっているのになんという名前だったかことばにできない)状態になると、初めは誰でも黙り込んでしまいます。

そこで受け手の私の出番です。「絵で描けそうですか?」「大きさを手で表せますか?」「それをどうやって使うかジェスチャーで表現してみてください」と促します。

それでもなかなか伝えられない時は、「それは食べるものですか?」「動物ですか?」等YES-NOで答えられる質問をして答えをしぼっていきます。

ことば、絵、ジェスチャー、指差し等伝達手段は何でもいいので、送り手と受け手のやり取りを繰り返しながら最終的に伝達できれば成功です。

「PACE訓練」を繰り返し行うことで、利用者様やご家族に伝達手段、伝達方法を知ってもらい、日常のコミュニケーションで少しずつでも利用してもらえたらと思っています。

先日、ことばが出にくいある利用者様との「PACE訓練」で、その利用者様は、何かを口へ入れるジェスチャーをした後、ゴクンとすぐ飲み込むまねをされました。


「食べ物ですか?」と尋ねるとYES反応。「口へ入れてすぐに飲み込んじゃいましたよね」と言うと「そうそうそれや!」とすぐ飲み込んだことが重要ポイントだという反応。

そこで私がピンと来て「薬ですか?」と言うと「そう!!」と笑顔で伝達成功の返事をして下さいました。

この利用者様は失語症の影響もあって、ことばだけでなくジェスチャーもスムーズには行いにくい方ですが、何回も「PACE訓練」を繰り返すうちに、顔の表情やぎこちないジェスチャーを組み合わせ、なんとか伝達しようと工夫できるようになってこられました。

また、ジェスチャーで表現しにくい時はすぐにノートを広げて絵に描いて伝えようとして下さいます。なかなか伝わらないこともありますが、諦めずに何回も繰り返し伝達してくださっています。

交代してSTから伝える時も、ことばだけでなく、ジェスチャーや絵を描いて伝える事に挑戦しています。ジェスチャー表現は結構難しく、絵心がない私は、絵で伝える事もかなり苦戦していて、日々利用者様と共に訓練中です。

コミュニケーションは一方的に行うものではなく、送り手と受け手の協力で成り立つキャッチボールのようなものです。送り手が伝えにくければ、受けてから積極的に質問して近づいていくこともできます。

皆さんもぜひ、周りの人とどんどんコミュニケーションを取ってみてください。自分の投げたボールが相手に届いて上手くキャッチしてもらえたら、とっても嬉しい気持ちになれますよ!

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皆様、いよいよ本格的な暑さがやってまいります。何か暑さ対策はされていますか?
それとも「まだ何も考えてないから教えて欲しい!」と思っていませんか?

今回は、皆様に役立つ暑さを和らげ、涼しく過ごせる方法をご紹介していきたいと思います。

まず初めに、一般的に「暑い」と感じる気温は、28度から37度と言われています。
そして過ごしやすい気温が、23度から27度と言われています。なので、体感で27度以下にすると過ごしやすく感じるわけです。

人間の身体は、平常時は体温が上がっても汗や皮膚温度が上昇することで体温が外へ逃げる仕組みとなっており、体温調節が自然と行われます。

環境省が公開している情報サイトでは、熱中症を引き起こす条件として、「環境」と「からだ」と「行動」によるものと考えられます。

要因その1:環境
・気温が高い。 ・日差しが強い。
・急に暑くなった日。・湿度が高い。
・閉め切った屋内。 ・熱波の襲来。
・風が弱い。 ・エアコンの無い部屋。

要因その2:からだ
・高齢者や乳幼児、肥満の方。
・下痢やインフルエンザでの脱水状態。
・糖尿病や精神疾患といった持病。
・二日酔いや寝不足といった体調不良。
・低栄養状態。

要因その3:行動
・激しい筋肉運動や、慣れない運動。
・長時間の屋外作業。
・水分補給できない状況。

体温の上昇と調整機能のバランスが崩れると、どんどん身体に熱が溜まってしまいます。
このような状態が熱中症です!!

ご自宅では、クーラーや扇風機を使用して、暑さ対策は出来ていると思います。しかし外はすでに30度を超える真夏日となっており外出時での対策も必須です。

現在は、【手持ちの扇風機】や【ネッククーラー】、【ファン付きのジャケット】と暑さ対策グッズも充実しています。

 扇風機 ネッククーラー.jpg ファンベスト.jpg

そんな暑さ対策グッズをより効果的に使う為には『体のどこを冷やすのか』が鍵となります。

効果的に体を冷やす場所:首筋(頸動脈)、脇の下(腋下動脈)、足の付け根(鼠経動脈)        

     冷やす場所.jpg   

この場所は血管が太く、血が多く通るので、冷やすとそれが体全身を巡り、体の熱を下げる効果をもたらすのです。

片麻痺や皮膚の感覚が鈍いなど、また疾患や症状によっては、冷やしすぎも良くないので、心配な方はかかりつけの医師に相談して実践してみて下さい。

・無理をせず徐々に身体を暑さに慣らす。
・家にいても室内の温度を測る。
・体調の悪い時は、特に注意する。
などしながら工夫とケアで予防しましょう。

ちなみに私の今持っている暑さ対策グッズは、『体感で-3℃になるという夏用ジャケット』を愛用しています。効き目はあまり実感できていませんが。笑

皆様も熱中症にはくれぐれも気を付けて、今年の夏も乗り切っていきましょう!

はじめまして。牛江 海(うしえ かい)と申します。
少々珍しく見えるこの苗字は三重県出身の父のものです。漢字自体は簡単ですが、あまりに聞きなれないためか電話口で名乗るとよくききかえされます。
これから電話でやり取りさせていただく事があるかと思いますが、名乗った際に聞き取りにくい苗字であること予めお伝えしておきます(笑)

私が最初に勤めた会社ではデイサービスとグループホームがあり、デイサービスでは理学療法士として、グループホームでは介護士として働いておりました。介護士としての経験は認知症の方への対応やその特性を捉えたリハを考察する上で貴重なものとなりました。

デイサービスの勤務時代にアルバイトで関わっていた訪問リハビリに惹かれ、訪問リハビリの理学療法士になりました。病院やデイサービスでのリハビリももちろん在宅を意識したものではありますが、自宅に戻られてからの実際の生活に介入できることが魅力だと感じています。運動学習が難しい方でも生活の過程にリハビリとなる動作を取り入れることで能力の維持・向上を図るなど今までの経験を活かしていきたいです。

今後も理学療法士として精進し、利用者様のために尽力していきたいと思います。よろしくお願い致します。